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【SS】二つの世界

2013.02.08 (Fri)
アンドリューが異世界トリップするまでのお話。
ここからようやく生々流転としての物語が始まるわけです。(今更)

え? アビゲイル?
名前すらでてきません(←






「おやまあ、あなたお一人ですかアンドリュー」

 突然の声。呼ばれる事の少なくなった本名で呼ばれハッとする。見覚えのある灰色の男が積み上げられた瓦礫の上に腰かけていた。

「狐につままれたような顔をして、どうしましたか?」
「いえ、この姿でもそう呼ばれるとは思いませんでしたから」

 アンドリューはゆっくりと首を横に振った。
 今はあの人にもらったアンディーナという名がある。その前は、元の男の姿だった時は、アンディと愛称で呼ばれていたから尚更だ。

「ところでここはどこなのでしょう」

 数日前、出奔した兄を探してオーラムを発ったはずだ。街道を通っていたからこんな今にも崩れそうな瓦礫とは縁はないし、共に旅をしていた友も幼馴染も誰も見当たらない。

「気付いていなかったと?
 あなたはもう随分前からそこにいるのに」

 よく周りを見てご覧なさい。
 その言葉と共にぼんやりしていた意識がだんだんはっきりしてくる。
 ここは……何だ。
 まさに異空間と言うべきか、重力を感じさせずふわふわと浮き沈みを繰り返す数多の物体。ところどころにひび割れた穴の空く暗い空間。まるでゴミ溜めのような……。

「そう、そこはこの世界から排除されたモノたちの墓場。
 あなたは三年の歳月を待たずして、この世界から異物とみなされた存在」

 異物。排除。思わず目の前が真っ暗になりかけるが、額を押さえることで踏みとどまった。
 穴らしきものを通じて見える世界から、灰色の男は尚も言葉を紡ぐ。手を伸ばしても見えない壁に弾かれた。境界線を越えることもできず、アンドリューはただ彼の言葉を聞くしかできずに。

「私はもう、あなたに干渉はできない。それは以前お伝えしましたね。
 あなたが────だと気付いてさえいれば……否、それでもこれは変えられない運命だったとも考えられる」
「グレイ。あなたは事情を知っているのですね。
 でしたら教えていただけませんか。ここから脱出する方法を。兄に会いたいのです!」

 何としてでも兄を探し出さねばならないのだ。この気持ちを伝えて、そして、どこまでも兄に着いていくのだ。
 期待の篭った眼差しを向けた先にはにたりと笑みを浮かべる男。グレイはより一層笑みを深めてアンドリューを突き放した。

「あなたがどういう存在かは知っている。けれども、それを伝えたところで現状が変わるわけではない。
 ───それに、もう時間のようですよ」

 ぽっかりと口を開けていた穴は、徐々に修復されつつあった。端から次第に闇が視界を覆い尽くしていく。
 これからどうすればいいのか。この廃棄場で、たった一人で。

「私は、この世界にとって必要のない存在なのですか……」

 思わず、見えなくなった灰色に悪態を吐いた。握り締めていた手の中は赤く滲んでいる。
 こんなところに長くいたら狂ってしまいそうだ。
 グレイの話が正しいのなら、アンドリューはかなり前からここに浮かんでいる。それこそグレイに呼び掛けられなかったらとっくに埋没していただろう。

「私はもう、兄様には会えない……?」

 弱々しい呟きが漏れた。小さな悲鳴だった。けれどもその声は、確かにアンドリューに自分を取り戻させた。

「嫌だ」

 今度ははっきりとした声だった。

「嫌だ、そんなの絶対に嫌!私は生きて必ずお兄様を見つけ出す!」
 ───よく言った、アンドリュー。流石は───だ。

 誰もいなかった空間にぼんやりとした声が響く。

「誰、なんですか? 何故私を知って……」
 ───知りたくばこちらへ来い。

 あちらこちらから聞こえてくる声。方向感覚の分からない闇の中で、それでも何故か行くべき方向は分かっていた。
 声に導かれて進めば進むほど、闇が明るくなっていくのがわかる。
 そして、ある地点を過ぎたところで声がはっきりと聞こえた。

 ───そっちじゃない。ここだ。
「姿見……? いや、これは」

 辺りを見渡せば、何もかもが漂っているこの空間の中に静止している水鏡。これだ、とアンドリューは思った。事実、声が聞こえる度に波紋がアンドリューの姿を揺らめかせる。

 ───そこを通ればこちらの世界、だ。
「こちら? 待ってください、まさか私の世界じゃないのですか」
 ───何を迷うことがある? お前は自分の世界には戻れないのだろう。

 先程の激情が息を吹き返しそうになる。

 ───いや、その……そういう意味で言ったんじゃない。今後は私が守ってやる。そう言いたかったんだ。

 慌てたようにアンドリューを宥める台詞はかなり上から目線だった。だけどその声が存外に優しいものだったから。覚悟を決めよう。
 アンドリューは思い切ってその手を取った。

「良いでしょう、あなたの世界へ参ります」

 水鏡を抜けると同時に誰かとすれ違った気がした。けれどもアンドリューは振り返らなかった。
 否、振り返る事はできなかった。

 何故なら、彼の敬愛する兄に瓜二つな存在が目の前に立っていたから。そして、それが兄ではないと知っていたから。

 そうして、何も知らないまま異なる歯車は流転していく。
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